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東川隆太郎の「かごしま世間遺産探訪記」ーvol2.久志漁港の微妙な階段ー

この記事は1年以上前に書かれた記事です。 営業時間など最新の情報はお店にお問い合わせください。 変更等お気づきの場合はメニューの情報提供カテゴリーからご連絡いただけると幸いです。

世間遺産はまだまだ一般的な言葉ではない。講演などに呼んでいただくと、冒頭「世界遺産」を展開されている東川さん、と紹介されることもしばしば。もちろん、世界遺産に関するお仕事もしているが、自分の場合は「世間遺産を展開している」の方がしっくりくる。もちろん、プロフィール等には「世界遺産」ではなく「世間遺産」と書いているはずなのだが、紹介される方も一般的な単語でないので、なかなか出てこないのだろう。しかたないなと思いつつ、やはり「世界遺産」は偉大である。

さて私にとって「世界遺産」といえば、大河ドラマ「西郷どん」で主人公・西郷隆盛を演じられた鈴木亮平さんである。御承知の方々も多いと思われるが、鈴木亮平さんは「世界遺産」に関する造詣がすこぶる深いことでも有名。ありがたいことに「西郷どん」では、私も関係するなんやかんやのお仕事をさせていただき、鈴木亮平さんとも何度がお食事などを共にする機会にも恵まれた。その際亮平さんと世界遺産についてのお話になり、その知識量と世界遺産愛に驚かされた。特にポーランドの「ワルシャワ歴史地区」がなぜ世界遺産に登録されたかの物語には、拝聴しながら涙が出そうになった。この物語は素晴らしいので、ぜひ何かの手段で調べていただきたい。そして、亮平さんが世界遺産を語るように、私も世間遺産を語る際に感動を伝えられるようになりたいなーと感じた瞬間でもあった。

そいてもって今回の世間遺産は美しい港町で出会った微妙な階段。南さつま市坊津町は、リアス式海岸と表現される入り込んだ海岸沿いに港が点在する地域で有名である。特に秋目、久志、泊、坊の4地区の港は古くから海外にも知られ、交易や政治活動に幅広く利用されてきた。現在は漁港として活用され、中小の船が停泊している。

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美しい久志漁港(東川隆太郎撮影)

そのひとつの久志漁港は住宅密集地区に隣接しているものの、バスなどが走る主要道路からは少し逸れた場所にあることから、何か目的をもって訪ねることがなければなかなか行くことの少ない港である。しかし、その漁港の雰囲気、景観は秀逸である。決して大きくはないが、防波堤に守られ湾曲した岸壁に整然と漁船が並ぶ。水揚げ施設横には、航海安全を祈願する恵比寿様が港を見守るように安置されている。また、岸壁には地元で産出する溶結凝灰岩で造られた階段状の雁木もあり、風景の一部になっている。

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港の恵比寿様(東川隆太郎撮影)

と、ここまででは映画のロケ地になるようなよか風景、として終わってしまうのだが、私が一番注目したのは、岸壁と斜面地にある住宅や墓地に続く道とをつないでいる階段である。

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久志漁港の微妙な階段(東川隆太郎撮影)

状況からして、最近法面舗装されたと思われる段差と一体化している階段は、微妙な幅と高低差で存在している。このような状況の階段ならば、法面舗装工事の際に壊されてもしかたがないくらいであるにも関わらず、そこに在り続けている。理由は、岸壁から住宅や墓地へと続く道への近道としての役割があるからなのだろう。

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久志漁港の微妙な階段(東川隆太郎撮影)

この微妙な階段を利用すると、坂道の始まりに回り込まずともよいのだ。ただ、本当に微妙な幅と段差ゆえに、わりと体のバランス感覚を用いて登らないと落ちてしまいそうになる。たかだか8段くらいではあるが、法面舗装で足を擦ると痛いはずである。暗い夜に酒に酔った状態とかでは、まず登るのは困難と考えられる階段だが、美しい漁港の風景の一部として段差にへばり付いている。風景に溶けかかっていると表現してもいいかもしれない。もう一度強調するが、法面舗装工事に際して失われる可能性もあったであろうに、住民は微妙な便利さと愛着からなのか引き継いでくれた。

その気持ちを私は勝手にくみ取り、また微妙な在り方にも共鳴し、世間遺産に認定した。

参考文献 坊津町郷土誌 上・下巻

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集落の石垣もよかですよ(東川隆太郎撮影)

この記事はかごしま探検の会の東川隆太郎さんに寄稿いただき、カゴシマニアックス編集部で編集したものです。

かごしま探検の会ホームページはこちら

https://tankennokai.com/

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