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東川隆太郎の「かごしま世間遺産探訪記」ーvol21.瀬留のカキ跡(龍郷町瀬留)ー 

この記事は1年以上前に書かれた記事です。 営業時間など最新の情報はお店にお問い合わせください。 変更等お気づきの場合はメニューの情報提供カテゴリーからご連絡いただけると幸いです。

今年の7月、私の大好きな奄美大島と徳之島の一部が世界自然遺産に登録された。
沖縄島北部および西表島と合わせての登録であり、日本の南端地域の自然環境が高く評価され、嬉しいニュースとなった。

5年前のことだが今回の世界自然遺産エリアにも含まれる奄美大島の湯湾岳に登ったことがある。
ボードウォークが整備された大和村側からの登山道は、私のような初心者にも登りやすかったことを記憶している。
ただ登山はどうしても苦手な為、途中の植物などを楽しむ余裕はなく、その記憶はあいまいだ。
さらに、到着した湯湾岳の山頂からの眺望が微妙で、山頂を示す標柱周辺は木々にこんもりと覆われていた。
ただ、草ムラを分け入ると、宇検村側の眺望が開ける場所もあり、自分が山頂にいることを確認できた。
ともあれ島の植物に囲まれながらの登山、下山後には達成感とともに爽快な気分を得ることができたのだ。
やはり、世界自然遺産に登録される自然環境は、何かが違うのかもしれない。

東川隆太郎の「かごしま世間遺産探訪記」ーvol21.瀬留のカキ跡(龍郷町瀬留)ー 
湯湾岳の遠望:東川隆太郎撮影

さて、もちろん世界遺産も関心事であるが、どうしても世間遺産的なものに目が向く私としては、奄美大島は世間遺産の宝庫の島と確信している。
ということで、奄美大島の世界自然遺産エリア外の地域にある素晴らしい遺産をご紹介したい。

奄美空港から島内の人口密集地である名瀬に向かう途中に位置する龍郷湾は、入り組んだリアス海岸の景観が美しい。

東川隆太郎の「かごしま世間遺産探訪記」ーvol21.瀬留のカキ跡(龍郷町瀬留)ー 
美しい龍郷湾:東川隆太郎撮影

江戸時代後期、西郷隆盛が大島に潜居した際に到着し、約3年間を過ごしたのも龍郷湾沿いの集落。

その湾奥に位置する瀬留集落は、明治41年に龍郷村が誕生した際に村役場が置かれ、一時は行政の中心を担っていた。
それだけに集落には貴重な文化財が点在している。村役場が置かれた同じ年に落成した瀬留カトリック教会の建物は、補修などを施しているが、明治時代の趣きを今に伝えてくれている。
また、幕末期にあたる慶応年間に薩摩藩が白糖製造のために工場を設置したことがあり、その建物に使用された石垣の一部が集落に残る。

東川隆太郎の「かごしま世間遺産探訪記」ーvol21.瀬留のカキ跡(龍郷町瀬留)ー 
白糖工場跡:東川隆太郎撮影

こうした物語にあふれた集落を初めて訪れた時のこと、龍郷湾を眺めながら何だろうと不思議に思った構造物があった。
それは海岸付近にあり、どう見ても自然に形成されたものではなく、人の手によるものであることは理解できた。
それは陸地に近い海岸部分を孤を描きながら囲むように石が積まれているのである。

東川隆太郎の「かごしま世間遺産探訪記」ーvol21.瀬留のカキ跡(龍郷町瀬留)ー 
なぞの構造物:東川隆太郎撮影

地元の方に訪ねると、それは「カキ」と呼ばれるもので、潮の干満を利用して魚を獲る漁法のための仕掛けとのこと。
正式には「ナーカキ」と呼ばれ、平家が伝えたともされるが、奄美はもちろん、沖縄から台湾、さらにはフィリピンまで漁法として分布しているという。
仕組みとしては、満潮時に海水とともに積まれた石内に入った魚が、干潮時にプール状となった石垣内に閉じ込められ、それを捕獲するというもの。

現役で活躍していた頃には2尺ぐらいの高さはあったといい、また、カキにも所有者がいて、その方々が魚を獲っていたという。現在も石垣は残っているものの、魚を閉じ込めるには少々頼りない高さで積まれている。
それでも美しい龍郷湾の干潮時にうっすらと現れる姿は、まるでミニチュアの古代遺跡が湖底からよみがえったようでもある。
これはあくまで私個人の感想であるが。

東川隆太郎の「かごしま世間遺産探訪記」ーvol21.瀬留のカキ跡(龍郷町瀬留)ー 
カキ跡:東川隆太郎撮影

世界自然遺産の島として改めて世に知らしめられた奄美だが、自然と向き合ってきた人々の生活の営みを伝える文化的価値のあるものもまだまだたくさん伝わっている。
このカキもそのひとつといえる。
ことさら主張せず穏やかに佇む姿は私のこころを捉え、文化財としての指定もまだ受けていないということであったので、とりあえず私が世間遺産に認定することにした。

参考文献
龍郷町誌 民俗編 編集者 龍郷町民俗編編さん委員会 発行 昭和63年11月23日
龍郷町文化財ガイドブック 編集 龍郷町教育委員会 発行 平成25年3月

この記事はかごしま探検の会の東川隆太郎さんに寄稿いただき、カゴシマニアックス編集部で編集したものです。

かごしま探検の会ホームページはこちら

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